(7)休息《9月―頭の痛い季節》 ~2003年9月の記録 ∬第7話 休息 再び住宅街の中を通り抜けながら、ようやくウシュックラール通りに辿り着いた。 あとで通り沿いのカフェでお茶でもしましょうと話していたものの、まさかずっと歩いて移動するとは思っていなかったから、ウシュックラール通りが始まるとすぐ目についたカフェに、取るものも取り合えず座り込んだのだった。 友人はチャイ、私はネスカフェを注文し、早速買っておいたお菓子の包みを解いた。 「ねえ、私の一番好きな食べ物って知ってる?」 彼女が突然そんなことを聞き出した。 「いいえ、分からないけど・・・」 「ふふ、マロングラッセなのよ」 なんという偶然。彼女の一番の好物を知らずに選ぼうとしていたとは。 突然マロングラッセが欲しくなってお店に飛び込んだのは、ひょっとしたら彼女の潜在意識がテレパシーのように伝わっていたからなのか・・・。 上の方から少し齧ると、甘い栗の風味がすぐに口中に広がる。確かに美味しいのだが、日本人の私には少々甘味が強すぎて、なかなかはかどらない。 ネスカフェを啜りながら4分の1ほど食べ進んだとき、ふと彼女の手元を見ると、跡形もなく消えうせていた。 目を丸くして、私はわざとテーブルの下を覗き込み、「落としちゃったの?」と冗談を飛ばした。 頬を膨らませながら「一気に食べちゃった」と彼女は照れ笑い。 「主人に言ってやらなくっちゃ。私の好物を知っててもあなたはなかなか買ってきてくれないのに、知らなかったXXが私のために買ってきてくれたって」 子供のように嬉しそうな顔を見せて喜ぶ彼女の反応は、いらいらすることばかり続いていた私の心を、ホッと和ませてくれた。 ウシュックラール通りが終わってアタトュルク通りが始まるこの辺りは、ブティックが集中しているエリア。 トルコ女性の例に漏れずウィンドウ・ショッピングの好きな彼女に付き合って、一律5ミリオン、10ミリオンという張り紙のある、夏物最終バーゲン中のブティックをいくつかはしごしながら延々歩き通したあと、最後に自宅に帰るためのドルムシュに乗りこんだ。 途中で彼女が降りると、急に疲れの出た私は、目を閉じ、ドルムシュの揺れにただただ身体をまかせていた。 つづく ∬第8話 父兄懇談会 |